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「相手を知る」が、料理も介護も変える。

誕生日の前日は、一年のうちで一番忙しい日です。

フィリピンでは、誕生日を迎えた人が食事を振舞う風習があります。
ワンルームの小さなキッチンで40人分の食事を用意するのは、そう簡単なことではありません。

■ AIに何度も聞いた、「本当に味噌汁は必要か?」

去年はクリームシチューを作ったのですが、フィリピン人の同僚からはイマイチの反応でした。
そこで今回は、去年の汚名を挽回しようとAIと綿密な打ち合わせをして献立を決めることにしました。

テーマは「日本の家庭料理ランチ」。

メニューはスパイシーチキンカレー、ポテトサラダ&豆腐サラダ、そしてあさりの味噌汁に決まりました。

カレーに味噌汁という組み合わせは、日本人には違和感があります。
私はAIに何度も確認しました。
「本当に味噌汁が必要か」と。

しかしAIの答えは明確でした。
「日本らしさを出すためには、味噌汁があった方が望ましい」。
具はあさりと小葱というシンプルな構成にしました。

カレーの材料選びでも、AIに何度か止められました。
キノコ類をたっぷり入れようとしたら却下。
フィリピンらしい工夫としてココナッツミルクを提案したら、「日本の家庭料理というコンセプトがブレる」と忠告されました。

言われてみれば、まったくその通りです。

原点に立ち返り、代わりに海藻と豆腐のヘルシーサラダを提案したところ、今度はAIからお墨付きをもらいました。
去年好評だったポテトサラダは今年も継続。
こうして献立が完成しました。

■ ヘルパー時代に学んだ「家庭の主婦の偉大さ」

狭いキッチンで料理をしていると、訪問介護ヘルパー時代を思い出します。

私は料理と指圧のスキルで、スーパーヘルパーの地位まで上り詰めました。
といっても、料理が特別上手なわけではありません。

ヘルパーに求められるのは、料亭のような高級料理ではなく、冷蔵庫にある材料で時間内にささっと作る、家庭の主婦的な手際の良さです。

料理をしながら、掃除・洗濯・後片付けも時間内に終わらせなければなりません。
ヘルパーをしていて、つくづく家庭の主婦は偉大だと実感しました。

衣食住を毎日きちんと整えることは、地味だけれど、本当に大切な仕事です。

■ 意外な一番人気は、一番手間のかからなかった味噌汁

さて、AIの助言通りに作った献立でランチパーティーを開催しました。
2か所のオフィスで同時開催です。

10年前はサラダなどの生野菜はほとんど好まれなかったのですが、フィリピンもずいぶんヘルシー志向になっています。
糖質を抑えるため、ライスなしでカレーだけ食べる人もいました。
時代の変化を感じます。

そして、今回のメニューで一番人気を聞いてみると、意外にも味噌汁を挙げる人が多かったのです。

一番手間がかからない料理が、最も人気だった。

人類の集合知を持つAIの判断に、思わず畏怖しました。

■ 「相手を知ること」から、介護も始まる

自分が作りたい料理を作るのではなく、相手が食べたい料理を作る。

文化や生活環境が異なる場合、相手が求めているものが見えにくく、自分の価値観に偏りがちになります。

しかしそれは、誕生日のランチだけの話ではありません。
外国人介護人材の育成も、異文化理解も、本質は同じだと私は考えています。

相手の文化や価値観を丁寧に理解した上でプログラムを設計する。
AIはその思考を助ける強力なツールになりえます。

「相手を知ること」から、すべては始まります。

この本質は、介護にも通底します。

「介護寿司職人」、フィリピンに現る。

——日本文化でKaigoを包んで、世界に届ける現場から

日本の介護を世界に届けるには、介護だけを教えても届きません。
私は、日本文化にKaigoを包んで届けることを戦略にしています。
その象徴として選んだのが、「寿司」でした。

外国人が思い浮かべる日本の象徴のひとつが、寿司。
であるならば、寿司を使わない手はありません。

まずは現場で巻く。考えるのはその後。

介護と寿司をどのように結びつけるかは曖昧なまま、とりあえず介護現場に出て寿司を作ってきました。
頭より先に身体を動かして、現場で考える。それが私のやり方です。

さすがに5〜6回もやると、おおよその流れが見えてきました。

皆、寿司づくりには興味があるようです。
全員がひと巻きずつ体験することで満足感が得られます。

ロール寿司で一番難しいのは切る作業です。
この部分だけ熟練した人が行えば、他の工程は誰がやっても修正できます。
これまで施設のご高齢者や障害を抱える方も参加しましたが、皆さん楽しく寿司づくりをされていました。

満足度を10%上げた、昭和50年代の舟盛り

3回目以降、舟盛りを導入しました。

フィリピンの介護施設には美しい盛り皿がなく、出来上がりを収めるフォトタイムの盛り上がりがイマイチだったのです。

そこでメルカリで、昭和50年代にかっぱ橋で購入されたという年季の入った木製舟盛りを手に入れました。

案の定、舟盛りの登場で完成後のフォトタイムが一気に盛り上がり、参加者の満足度が10%は上昇したはずです。
さらに日本の介護仲間から2隻寄贈いただき、現在3隻の舟盛りがわが家に停泊しています。

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寿司は、認知症予防の教材になる

介護施設で寿司クッキングが盛り上がることは分かりました。
あとは、介護教育とどう結びつけるかです。

前回は、認知症予防のレクチャーと組み合わせました。

認知症予防につながる活動のひとつとして、料理があります。
皆で料理を作り、五感を刺激する。
さらに、作った後にその工程をみんなで思い出すことで、認知症予防につながる活動として活用できます。

全員に寿司ロールをひと巻き体験してもらい、その後のレクチャーで工程を思い出すゲームをしたところ、思いのほか盛り上がりました。

寿司クッキングをただ楽しいイベントで終わらせるのではなく、認知症予防と組み合わせることで、学びの時間に昇華できたのです。

二人羽織で、「介助される人」の気持ちを学ぶ

それだけにとどまらず、作った寿司を使って二人羽織も行いました。

日本の伝統ゲームの紹介と共に、食事介助を受ける人の気持ちを理解するという、日本文化を活かした介護教育です。

最後に、舟盛りにのった寿司をみんなで食べる。
介護、認知症予防、二人羽織、そして寿司。
イベント盛りだくさんの大漁です。

半日で完結する「日本の介護を世界に届けるサービス」

大体3〜4時間、半日コースとして、介護と寿司を組み合わせた「日本の介護を世界に届けるサービス」がきれいにまとまりました。

引き続き、介護×寿司イベントの実践を重ね、精度を高めていきます。

そして、フィリピンだけでなく他国からも、「介護寿司職人」としてお呼びがかかるよう、これからも現場で技を磨きます。

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介護合宿が問うこと——「どの山を目指すか」が、その人の介護を決める

どの山を目指すか

人は「どの山を目指すか」で、その後の道筋の大方は決まる。

出国という節目を迎えた外国人ケアワーカーたちに、改めてそう問いかけたくて、この介護合宿を企画しました。

参加者はオンラインクラスの受講生たち。いよいよ出国というタイミングで開催した、最後の仕上げです。

オンラインから合宿へとつなげることの強みは、すでに関係性ができていること。私が介護に対してどのような世界観を持っているか、ある程度は伝わっている状態です。

その世界観を、今度は「身体性を通して学ぶ」のが、この合宿の真髄でした。

「普通の介護研修」とは、ほど遠いプログラム

今回のプログラムは、通常の介護研修のイメージから大きく外れたものでした。

  • ローカルの大衆食堂でランチをした後、超高級ホテルのラウンジでお茶をする

  • 高齢者施設での実習では、介護をせず、みんなで寿司を作る

  • 一流の「触れ方(手当て)」とは何かを、プロの鍼灸指圧師の先生から学ぶ

なぜ、こんなプログラムなのか。

介護とは日常生活支援であり、人の日常は多様です。自分の常識の範囲だけで介護を提供すると、受け手にとって窮屈な生活になります。だからこそ、相手の立場に立って考える「思考の癖」を身体で覚えてほしかった。

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鍼灸指圧師の先生と受講生たち

介護は、ある意味で一流ホテルより難しい

介護もまた、接客業です。

大衆食堂のおばちゃんのような気さくな接客もあれば、一流ホテルのような洗練された接客もある。しかしそれは、実際に自分が体験してみなければ、想像力は働きません。

介護は、一流ホテルよりも難しい場面があります。なぜなら、顧客との距離が圧倒的に近いからです。

特に認知症のある方は、その日の状態によって求める距離感が変わります。気さくさを求めているときもあれば、丁寧で洗練された関わりを求めているときもある。その「機微」をすっと察知できるようになったとき、その人は指名されるケアワーカーになるでしょう。

介護福祉士は、ゴールではなく通過点

多くの外国人ケアワーカーにとって、日本で働くこと自体がゴールです。そこへ辿り着くまでの道のりだけでも、完結したドラマがある。

しかし、人生の新しい章を迎えるにあたり、次のゴールを描いてほしいと思っています。

介護先進国・日本を選んで働くのだから、ぜひ介護のプロフェッショナルを目指してほしい。介護福祉士はただの通過点です。その先で、自分の興味・関心と「介護」を掛け合わせながら、自分だけの新しい道を切り開いていってほしい。

そんな願いを込めて、彼女たちを送り出しました。

日本の介護を、輸出産業に

日本の介護を輸出産業にしたい——

そのことについて、いつも考えています。

日本の介護現場で積み上げられてきた知恵は、世界のどこに持って
いっても通用するはずです。でも、その知恵は、まだほとんど世界に
届いていません。

私なりに試行錯誤を続け、ようやく、具体的なアクションに辿り
着きました。

フィリピン介護養成学校との、新しい挑戦

認知症紙芝居を中心に置いた「日本式認知症ケアのオンライン
コース」を、フィリピンの介護養成学校で受講してもらえることに
なりました。

この学校の受講生は、必ずしも日本での就労を目指しているわけ
ではありません。彼らの行先は、北米、中東、ヨーロッパ、アジア
と様々です。

つまり今回のコースは、「日本らしさ」をスパイスのように効かせ
ながらも、世界のどの現場でも役に立つ学びを提供しなくては
なりません。しかもオンラインという制約のなかで。

まずは、養成学校の講師陣が受講します。内容が良ければ、学校の
正規カリキュラムに導入されます。そこから、世界に旅立つフィリ
ピン人ケアワーカーの学生たちが学びます。

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なぜ、フィリピンなのか

フィリピンは、世界中にヘルスケアワーカーを輩出している国です。
私がフィリピンに興味を持ち、今もこの地に居続けている最大の理由
は、まさにここにあります。

フィリピン人ケアワーカーに日本の介護を伝え、彼らを通して世界
に広げる——これが、私の戦略です。

介護を「ソフトウェア」として輸出する

日本が長年かけて蓄積してきた介護の知恵を、「ソフトウェア」と
して輸出することができれば。

介護保険制度という国内の枠組みを超えて、日本の「介護職人」が、
世界に出て活躍できる時代が来るのではないか——そう考えて
います。

寿司職人が世界中で活躍しているように、日本の介護職人もまた、
世界の舞台で活躍できる場をつくっていきたい。

これは、日本の介護業界の誇りを、もう一段階高い場所に引き上げる
試みでもあります。

まずは、小さな一歩から

施設で働かれている皆さんが日々積み上げている技術、観察、関わり
方——それは、日本の枠を超えて世界に通用する「資産」です。

その資産を世界に届ける一つの実験が、ようやく始まりました。

これからの動きを、ぜひ一緒に見守っていただければ嬉しいです。

「介護」は英語にできない――だから私はこう訳す

英語が下手でよかったかも。今、そんなことを思っています。日本の介護を世界に届けるには、その方が都合がいいからです。

私は日々、せっせと「日本の介護」を英語に変換しています。

「介護」は日本で育まれてきた概念なので、そのまま英語に置き換えるのが難しいことがよくあります。英単語を当てはめることは出来ても、本当に伝えたいニュアンスがなかなか表現できない。

そんな中、自分の中でしっくりきた表現があります。

Everyday Life Support

介護を表現する時、「Caregiving」や「Nursing Care」という言葉を使うと、どうしても医療の延長線上の印象が残ります。しかし、日本の介護職は医療職とは違います。その人らしい生活を支えるための専門職です。

そのニュアンスを伝えたくて Everyday Life Support という言葉を使ってみたところ、思いのほか海外のお医者さんたちに響いていました。

それ以来、日本の介護を Everyday Life Support と表現するようになりました。我ながら良い表現だと思っています。

やはり、分かりやすい言葉は重要です。

最近は、やさしい英語についてよく考えるようにもなりました。なぜなら、世界の介護現場を支えているのは、英語ネイティブの人たちというより、第二言語として英語を使う人たちだと気づいたからです。

私がアメリカで介護をしていた頃、同僚はメキシコ人でした。英語は上手でしたが、母語はスペイン語でした。

今住んでいるフィリピンでも、多くのケアワーカーは母語は英語ではなく、タガログ語などの現地語です。

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なるほど、日本の介護を英語に変換する作業も、完璧な英語である必要はないのではないか。

むしろ、第二言語として英語を使う現場の人たちに伝わる、分かりやすい英語こそがふさわしいのではないか、と気づきました。

私はつねづね、英語が下手なことに絶望していました。

しかし、この考えにたどり着いてからは、下手な英語こそが武器になると、希望が見えてきました。

自分が心地よく理解できる英語を基準にして、日本の介護を訳していけばいい、という希望です。

これは、むしろ英語ネイティブには難しい作業です。日本人が、外国人に伝わる「易しい日本語」を使うのが、意外と難しいのと同じ理屈ですね。

下手な英語こそが武器になる。そんな新しい希望をもって、日本の介護を世界に届けていきます。

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