■トップダウンと合意主義
フィリピン初の「注文を間違えるレストラン」が開催されました。
日本から介護講師陣がフィリピンに来るタイミングに合わせ、急遽開催が決まりました。そこからわずか2週間ほどで実現にこぎつけるスピード感は、さすがトップダウンで意思決定が行われる国・フィリピンです。
末端までの合意を重ねながら慎重に進める日本の「合意主義」では、考えられないスピードです。しかし、海外で何かを成そうとするなら、このスピード感についていくことが重要です。
「釘は熱いうちに打て」の言葉通り、熱が高まっている瞬間に、半歩でも前に進めることで、次に見える景色が変わってきます。
すでにツアーの予定が詰まっていた中で、もうひとつイベントを組み込むのは簡単ではありませんでした。しかし、「この機会に一つでも多くを学びたい」という日本人ゲストのどん欲な姿勢のおかげで、開催にこぎつけることができました。


■プロの聞く力
当日、介護施設から3名の入居者さんがウェイターとして参加してくれました。
注文を取り、飲み物を運び、私たち日本人グループにも接客をしてくれました。厨房はおそらく大忙しだったのでしょう。注文から配膳までかなり時間がかかりました。
その間、入居者さんたちは私たちのテーブルにずっといて、ご自身の身の上話をしてくれました。もちろん会話は英語です。
私たちは内容を十分に理解できていたわけではありません。それでも入居者さんが離れなかったのは、この場の居心地が良かったからだと思います。
言葉が通じなくても、こちらが「理解しようとする姿勢」を示せば、コミュニケーションは成立します。
「話を聞いてくれると、嬉しい」
認知症紙芝居にも出てくる大切なフレーズです。この聞く姿勢ひとつを取ってみても、プロの介護講師としての技の一端が垣間見えました。

■紙芝居の舞台裏
配膳までの待ち時間に、認知症紙芝居を披露することになりました。「配膳の準備が整い次第、途中で終了して」という、なかなかの無茶ぶりです。
この状況で求められる私の役割について考えました。
あくまで主役は接客をしている入居者さん達です。であるならば、私は「繋ぎ」に徹することが最適であると判断し、話の区切りが良いポイントをいくつも頭に入れて臨みました。


10分ほど経ったところで終了の合図が入り、その数分後にはきちんと終えることができました。前座として求められる役割を果たせたことに、ひとまず安堵しました。
■臨機応変
食事はワンプレートで運ばれてきました。愉快に昔話をしていた時とは打って変わり、配膳時の入居者さんたちの真剣な表情が印象的でした。


食事中、私は次に紙芝居を再開する際の構成について考えていました。最後までやり切るべきか、短くまとめるべきか、その中間か。
今回の紙芝居は、あくまで主役を支える「助攻(アシスト)」です。こうした状況にも対応できるよう、短いバージョンの紙芝居も必要だと、現場で新たな宿題を得ました。
■荘厳なる静けさ
食事が一段落したところで、ふいに紙芝居の再開が言い渡されました。
普段のフィリピンであれば、食後は賑やかになり、話を聞くどころではなくなります。私は内心、「やりづらいな」と思いました。
しかしこの日は、日本人ゲストを含め、数人が真剣に耳を傾けてくれたことで、会場全体が次第に落ち着いていきました。
終盤には、心地よい静けさすら感じられました。パーティ好きのフィリピンでは、滅多に味わえない〝静けさ〟です。
伝え手と聞き手、そして場の雰囲気がシンクロしたときにだけそっと訪れる、〝荘厳なる静けさ〟。
この瞬間、私は、この物語が誰かの心に届いたと感じました。

無茶ぶりの連続でしたが、最後までやり切って本当によかったです。また1つ引き出しが増えました。
フィリピンの「注文を間違えるレストラン」は始まったばかりです。これから、たくさんのレストランへと、この輪を広げていきます。















