海外介護

日本の介護を、輸出産業に

日本の介護を輸出産業にしたい——

そのことについて、いつも考えています。

日本の介護現場で積み上げられてきた知恵は、世界のどこに持って
いっても通用するはずです。でも、その知恵は、まだほとんど世界に
届いていません。

私なりに試行錯誤を続け、ようやく、具体的なアクションに辿り
着きました。

フィリピン介護養成学校との、新しい挑戦

認知症紙芝居を中心に置いた「日本式認知症ケアのオンライン
コース」を、フィリピンの介護養成学校で受講してもらえることに
なりました。

この学校の受講生は、必ずしも日本での就労を目指しているわけ
ではありません。彼らの行先は、北米、中東、ヨーロッパ、アジア
と様々です。

つまり今回のコースは、「日本らしさ」をスパイスのように効かせ
ながらも、世界のどの現場でも役に立つ学びを提供しなくては
なりません。しかもオンラインという制約のなかで。

まずは、養成学校の講師陣が受講します。内容が良ければ、学校の
正規カリキュラムに導入されます。そこから、世界に旅立つフィリ
ピン人ケアワーカーの学生たちが学びます。

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なぜ、フィリピンなのか

フィリピンは、世界中にヘルスケアワーカーを輩出している国です。
私がフィリピンに興味を持ち、今もこの地に居続けている最大の理由
は、まさにここにあります。

フィリピン人ケアワーカーに日本の介護を伝え、彼らを通して世界
に広げる——これが、私の戦略です。

介護を「ソフトウェア」として輸出する

日本が長年かけて蓄積してきた介護の知恵を、「ソフトウェア」と
して輸出することができれば。

介護保険制度という国内の枠組みを超えて、日本の「介護職人」が、
世界に出て活躍できる時代が来るのではないか——そう考えて
います。

寿司職人が世界中で活躍しているように、日本の介護職人もまた、
世界の舞台で活躍できる場をつくっていきたい。

これは、日本の介護業界の誇りを、もう一段階高い場所に引き上げる
試みでもあります。

まずは、小さな一歩から

施設で働かれている皆さんが日々積み上げている技術、観察、関わり
方——それは、日本の枠を超えて世界に通用する「資産」です。

その資産を世界に届ける一つの実験が、ようやく始まりました。

これからの動きを、ぜひ一緒に見守っていただければ嬉しいです。

「介護」は英語にできない――だから私はこう訳す

英語が下手でよかったかも。今、そんなことを思っています。日本の介護を世界に届けるには、その方が都合がいいからです。

私は日々、せっせと「日本の介護」を英語に変換しています。

「介護」は日本で育まれてきた概念なので、そのまま英語に置き換えるのが難しいことがよくあります。英単語を当てはめることは出来ても、本当に伝えたいニュアンスがなかなか表現できない。

そんな中、自分の中でしっくりきた表現があります。

Everyday Life Support

介護を表現する時、「Caregiving」や「Nursing Care」という言葉を使うと、どうしても医療の延長線上の印象が残ります。しかし、日本の介護職は医療職とは違います。その人らしい生活を支えるための専門職です。

そのニュアンスを伝えたくて Everyday Life Support という言葉を使ってみたところ、思いのほか海外のお医者さんたちに響いていました。

それ以来、日本の介護を Everyday Life Support と表現するようになりました。我ながら良い表現だと思っています。

やはり、分かりやすい言葉は重要です。

最近は、やさしい英語についてよく考えるようにもなりました。なぜなら、世界の介護現場を支えているのは、英語ネイティブの人たちというより、第二言語として英語を使う人たちだと気づいたからです。

私がアメリカで介護をしていた頃、同僚はメキシコ人でした。英語は上手でしたが、母語はスペイン語でした。

今住んでいるフィリピンでも、多くのケアワーカーは母語は英語ではなく、タガログ語などの現地語です。

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なるほど、日本の介護を英語に変換する作業も、完璧な英語である必要はないのではないか。

むしろ、第二言語として英語を使う現場の人たちに伝わる、分かりやすい英語こそがふさわしいのではないか、と気づきました。

私はつねづね、英語が下手なことに絶望していました。

しかし、この考えにたどり着いてからは、下手な英語こそが武器になると、希望が見えてきました。

自分が心地よく理解できる英語を基準にして、日本の介護を訳していけばいい、という希望です。

これは、むしろ英語ネイティブには難しい作業です。日本人が、外国人に伝わる「易しい日本語」を使うのが、意外と難しいのと同じ理屈ですね。

下手な英語こそが武器になる。そんな新しい希望をもって、日本の介護を世界に届けていきます。

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日本の介護を世界に届ける人たち

約2ヶ月に及ぶ入国前介護オンライン研修が、もうすぐ終了します。

入国前ということもあり、受講生たちはモチベーションも吸収力も高い状態にあります。日本の介護の理念や、専門職として押さえておくべき考え方、そして認知症ケアについても、意欲的に学び続けています。

私自身も、外国人介護労働者としてアメリカやフィリピンで働いてきました。その経験があるからこそ、海外に出る前のこの時期に、学習へのモチベーションが高まることをよく理解しています。

教育は、一方通行ではうまくいきません。

相手が求めているタイミングで、どれだけ質の高い教育を提供できるかが重要です。求めていない人に、いくら良質な教育を提供しても身につかないものです。自分自身も、そうでした。

その意味で、入国前という最も意欲が高まっている時期に教育を行うことは、とても重要だと感じています。

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今回のオンライン研修では、課外活動として「認知症紙芝居」を使った啓発活動を行っています。受講生には、身近な人に認知症紙芝居を実演し、その様子を動画で送ってもらうようにしています。

オンライン教育のため、私自身が現地で直接見ることはできません。しかし送られてくる動画を見ていると、彼らの日常生活の断片が垣間見え、とても興味深く感じます。

紙芝居の途中で猫が画面に入ってきたり、遠くからコケコッコーという鶏の声が聞こえてきたりと、臨場感のある場面もありました。また、誰をリスナーに選んで紙芝居を聞いてもらうのかによって、その人の個性も見えてきます。

ただ、共通して感じることがあります。

それは、「日本の介護を学びたい」という向上心です。

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私は受講生たちに、いつもこう伝えています。

「介護福祉士はゴールではなく、通過点である」と。

日本でプロの介護職を目指すのであれば、介護福祉士の資格を取得することは当然のことです。しかし、本当に問われるのは、その国家資格を取得した後に、どのような専門性を磨いていくのかだと思います。

実際、受講生たちの将来の夢を聞いていると、

「認知症ケアのトレーナーになりたい」

「介護の講師になりたい」

という声をよく耳にします。

現場で学んだことを、次は自分が誰かに伝えたい。そうした思いが、彼らの中に生まれているのだと思います。

その意味で、認知症紙芝居はとても便利なツールです。学んだ次の日から、誰かに伝えることができるからです。

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私は、日本の介護を世界に届けるのは、日本人ではなく、日本で介護を学んだ外国人労働者なのではないかと思っています。もちろん、それは彼らが日本人より優れているという意味ではありません。役割が違うのです。

本物の介護の技術や理念、そして概念を作り上げているのは、日本の現場で日々淡々と利用者の暮らしを支えている「介護職人」だと思います。しかし、その思想や価値観を世界に広げていくためには、また別の能力が必要です。

自国を離れ、外国語を学び、新しい文化の中で働いている外国人ケアワーカーたちは、日本の介護を伝える「メッセンジャー」として、とても適した存在だと思います。

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認知症紙芝居というツールを使うことで、彼らは日本に入国する前から、日本の介護を伝える役割を担い始めています。

楽しそうに日本式の認知症ケアを語る彼らの姿を見ていると、日本の介護を世界に届ける準備が、少しずつ整ってきているのではないかと感じています。

世界のたまり場

現在、週2回、入国前の外国人ケアワーカー向けの研修を行っています。今月は「認知症ケア」をテーマにレクチャーをしていました。その仕上げとして取り組んだのが、認知症の人の内面の世界です。

このテーマをどう扱うか考えていたときに出会ったのが、『ありがとうをつたえたくて』という絵本でした。この作品は、認知症のお母さんが娘に向けて伝えるメッセージを描いた物語です。

読んだとき、認知症のお母さんの優しい思いや、その時々の情景が鮮明に浮かび、文章の力強さを感じました。

そして、この作品を朗読劇の形で外国人ケアワーカーに読んでもらったら、認知症の人の内面の世界により深く触れることができるのではないかと考えました。

そこで、外国人ケアワーカー向けの教材として、この作品を朗読劇風にアレンジする許可をいただき、編集作業を始めました。

私のミッションは、日本の介護を世界に届けることです。

日本の優れた介護教育や、介護に関する作品をどのように世界に伝えるのか。その視点で、日本の介護をながめています。

今回は、認知症紙芝居に続く第2弾として、この作品を使った朗読劇をどのように世界に届けられるかを意識しながら制作を進めました。

認知症紙芝居の英訳とリアレンジに取り組んだ5年前と比べると、今はAIの力を活用できる時代になりました。

翻訳や編集、そして頭の中にあるイメージをイラストとして形にすることも、以前よりずっとやりやすくなっています。

やりたいことが明確で想像力さえあれば、私のように特別な文章力や絵の才能がなくても、クリエイティブな活動ができる時代になったと感じています。

そして今週、オンラインクラスで朗読劇を行いました。それぞれのクラスには日本人のゲストにも参加していただき、朗読劇を聞いていただきました。

外国人ケアワーカーたちは作品の世界に深く入り込み、涙を流す受講生もいました。私の想像以上に、朗読劇の持つ力を感じることができました。

介護にとって大切なスキルの一つは、想像力だと思います。

特に、人の痛みを感じ取る想像力や感受性をどう育てるかは、とても重要です。

もし介護を受ける人を、自分とは切り離された「対象者」としてだけ捉えてしまうと、関係がうまくいかなくなったときに負のスパイラルに陥りやすくなります。

しかし、相手の痛みを自分の痛みとして感じられる想像力があれば、介護が大変な状況でも最後の最後のところで踏みとどまることができると思います。

そのような想像力は、頭で理解するだけでは育ちません。自分が能動的に関わり、心を揺さぶられる体験を通して育つものだと思います。

今回の朗読劇は、そのきっかけになり得るのではないかと感じました。

私はこの朗読劇の様子をビデオに編集し、受け入れ予定の施設にも共有しました。

外国人ケアワーカーがどのような教育を受けているのかを、日本の施設の方々にも知っていただきたいからです。

授業風景だけを伝えるよりも、朗読劇という「作品」として活動を伝えることができたのが良かったです。

もしこの朗読劇を受け入れ施設の職員の方々にも見ていただければ、外国人ケアワーカーを迎え入れる際の理解もより深まるのではないかと思います。

介護や認知症ケアは、国や世代を超えて語り合うことができるテーマです。

だからこそ、世界の人たちが集まり語り合う「たまり場」をつくる題材としても、適していると感じています。

それぞれの国の介護や認知症ケアについて語り合う場が生まれれば、そこに関わる人たちの想像力も育まれていくのではないでしょうか。

介護を通して世界のたまり場をつくる。

リアルの介護イベントやオンライン教育を通して、私はすでにいくつかの「たまり場」を経験し、その効果を実感しています。そして、たまり場をつくるためには、軸となるアクティビティが必要です。

認知症紙芝居、そして今回始めた認知症朗読劇が、これからどのように成長し、世界のたまり場につながっていくのか。

実験を続けていきたいと思います。

約10分の朗読劇の動画です。入国前の外国人ケアワーカーの様子と、認知症の人の内面の世界を感じていただければと思います。ぜひご覧ください。

やさしい世界の作り方

注文を間違えるレストランのイベントで、認知症紙芝居を披露しました。

今月は、大学、介護施設、レストランと、紙芝居を披露する機会が続きました。それぞれイベントの目的も対象者も異なります。しかし、認知症や介護というテーマには、多くの人が関心を寄せています。

世界が長寿化していく流れの中で、これらのテーマへの関心は今後ますます高まっていくのではないでしょうか。

紙芝居という日本の伝統文化を使うことで、どんなバックグラウンドを持った人にも、認知症について分かりやすく伝えることができる。そのツールとしての価値を、改めて実感しています。

ありがたいことに、認知症紙芝居のパフォーマンスを、わざわざ遠方から聞きに来てくれる人や、何度も参加してくれる人がいます。

写真は、私の紙芝居を4回も聞きに来てくれた介護職の女性です。 週6日、中国人の利用者さんの家で介護をしているそうです。その利用者さんは認知症とのことでした。

私の紙芝居を聞いたことで、介護の仕方が変わり、利用者さんとの関係が良くなったと言ってくれました。

「愛が大切だとわかった」 そう話してくれました。

立ち話だったため、具体的にどのように介護の仕方や考え方が変わり、行動の変化につながったのかまでは詳しく聞くことができませんでした。

しかし、本人がポジティブな変化を実感していることは確かです。その話を聞けたことがとてもうれしかったです。うれしくて一緒に写真を撮りました。

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実際、イベントを何度繰り返していても、聞いている人の行動変容につながらなければ、エンタメだけで終わってしまいます。

エンタメの要素はもちろん大切です。しかし、私が意図しているのは介護の教育です。一方で、エンタメの要素があるからこそ、何度も聞きに来てくれるとも言えます。

楽しく学ぶ。

エンタメと教育、その両軸が必要な時代になったと感じています。なぜなら、ただ学ぶだけであれば、ネットやYouTube、AIからの情報で十分だからです。

では、また聞きたくなるようなパフォーマンスをするにはどうしたらよいのか。彼女のおかげで、新しい課題が見つかりました。

リアルイベントと並行して、オンラインでも外国人ケアワーカー向けの認知症紙芝居を使った教育を行っています。

新しい試みとして、受講生に紙芝居のハンドアウトを郵送し、実際に身近な人に認知症について、自分が学んだことを伝える実践ワークを行いました。

受講生からは、その実践の動画と感想が送られてきています。

動画の撮り方や紙芝居の披露の仕方もそれぞれ異なり、さまざまな工夫がされていてとても面白いものでした。感想を読むと、皆それぞれが、認知症ケアを人に伝える喜びを感じている様子でした。

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確かに、認知症の話ができるのは、医者や専門家だけだと思われがちです。しかし、紙芝居の内容を学べば、次の日から自分で人に伝えられるようになる。これは、きらめき介護塾が編み出した画期的なアイデアだと思います。

SNSが広がっている今の時代、誰もが発信者になれます。 観客として聞くだけではなく、自らパフォーマーとなり発信することができる時代です。

紙芝居というツールを使って、認知症について発信する人が増えていけば、それだけ社会は認知症の人にやさしくなっていくと思います。

私は、自分がパフォーマーとして発信していくよりも、認知症について伝えられる人をどんどん育てていきたいと考えています。

それが、やがて日本の介護を世界に届けることにつながっていく。そう思っています。