振り返れば、介護のことも、海外で働くということも、何も分からないまま、勢いだけで日本を飛び出し、アメリカへ渡りました。20年前のことです。
自分が経験したからこそ、外国人ケアワーカーが抱える不安や期待、そして介護現場を通してどのような成長の軌跡を歩んでいくのかを具体的にイメージすることができます。
もちろん、環境も時代も違います。すべてを自分の経験に当てはめるつもりはありません。それでも、「介護」と「海外就労」という点においては、確かな共通項があります。
外国人ケアワーカーを過度に美化せず、かといって否定もせず、ニュートラルな視点を持てることが私の強みです。
■夢の展開
「啐啄同時(そったくどうじ)」という諺があります。
ひなが内側から殻をつつき、親鳥が外側からつつく。そのタイミングが同時であることを意味します。
教育に置き換えると、生徒が「学びたい」と思う瞬間に、教師が「教える」。そのタイミングがぴたりと合ったとき、成長が生まれるということです。
外国人ケアワーカーにとっての「啐啄同時」は、在留資格の申請から交付までの約3か月間だと考えています。この時期、彼らの学習意欲は最高潮に達します。

日本で働くという夢が、もう手の届くところまで来ているからです。しかし、ここで講師が見誤ってはならないことがあります。
彼らの夢の中心は「日本で働くこと」であって、必ずしも「介護職として働くこと」ではないということです。
その少なくないずれを丁寧に補正し、「日本で働く」という夢が「日本で介護職として働く」という夢へと展開できるように手助けをするのが、私の仕事だと考えています。
彼らの学ぶ意欲が高まっているこの時期にこそ、「日本の介護」を正面から伝える。このチャレンジに取り組んでいます。
■オンラインの利点
来日までの3か月間、生徒と寝食を共にできれば理想的な教育ができるでしょう。しかし、教育にもコストという現実があります。
私の挑戦は、コストを抑えながら教育の質を最大限に高めることです。数多くの失敗を重ね、ようやくオンライン介護教育に手応えを感じられるようになりました。
オンラインには制約もありますが、同時に可能性もあります。
学習ログを蓄積し、データとして分析できること。距離を超えて、日本の受け入れ施設と連携できることなど、オンラインのメリットを最大限に活かすことで、活路を見出してきました。

■介護職として働く価値
オンラインであっても、内省は促せます。ただし、そのためには教育スキルとITスキルの両方が不可欠でした。
アナログ人間だった私も、今ではデジタル環境にも随分慣れました。AIの進化も後押しとなり、オンライン教育の環境は着実に向上しています。
いま問われているのは、私自身の教育力をどこまで高められるかです。
日本の介護を正面から伝えるために、介護の歴史を教えます。そして、その先にある未来として、介護福祉士の役割と専門性、さらに世界市場から見た介護福祉士の価値についても伝えています。
介護を短視眼的に捉えれば、ただの「お手伝い」になります。しかし長視眼的に捉えれば、介護は誰もが関わるライフイベントであり、世界が直面する高齢化という課題に向き合う専門職だと気づきます。その視点が得られたとき、日本で介護職として働く価値が見えてきます。
日本は、世界で最初に本格的な高齢社会に直面した国です。現場には数多くのプロフェッショナルがいます。
職業人としての自分の価値を高める環境として、これほど整っている国は他にないと私は思っています。

■夢を語る
来日し、新しい日常という荒波に向き合う前に、私は彼らに夢を語ってもらいます。私の教育の質が高まれば、彼らの夢はより大きく、より具体的に育っていくことでしょう。
不安と期待が入り混じるなかで、彼らは懸命に内側から殻を破ろうとしています。いくつになっても、新しい世界へ飛び立つ前夜は胸が高鳴るものです。
彼らと接していながら、私も自分が20代の時の不安や期待が入り混じっていたあの頃を思い出します。
20年前と比べ、介護はますます世界から求められる分野になりました。いま、介護の価値が再定義される時代に入ったと私は見ています。
だからこそ、彼らの夢を大きく育て、日本へ送り出したい。それが私の仕事です。
