海外介護

注文を間違えるレストラン

認知症のある人が接客を担い、注文を間違えることを前提に運営されるレストラン型プロジェクト、「注文を間違えるレストラン」が、フィリピンで開催されます。

このプロジェクトは日本発祥です。

「間違うこと」を否定せず、そのまま受け入れるという発想は、認知症への理解と寛容さを社会に問いかける、日本ならではの取り組みだと思います。

■海を越えた日本の認知症ケア

昨年、私は認知症紙芝居のイベントで介護施設を訪れました。するとその施設では、入居者さんがウエイター役となり、私たち訪問客をもてなすという取り組みが行われました。

施設のフィリピン人オーナーが「注文を間違えるレストラン」のことを知り、その考え方を参考に、試験的に施設内で実践したのです。

メニューはサンドイッチ、スープ、ジュースなど限られたものでしたが、入居者さんたちはメモを片手に、真剣な表情で注文を取りに来てくれました。

何を注文しても、最終的には同じものが運ばれてくるのですが、それでも入居者さんたちは生き生きと動いていました。

注文を運んでいる途中でお腹が空いたのか、そのまま食べてしまうおばあちゃんもいて、施設は自然と笑いに包まれていました。

その光景を見たとき、私は心を打たれました。

私の知らないところで、日本の認知症ケアの考え方が、すでに海を越えて海外に浸透していたからです。驚きと同時に、誇らしさも感じました。やはり、日本の介護はすごい、と。

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■認知症紙芝居とのコラボ企画

その後、施設のオーナーから声をかけられました。

オーナーはレストランも経営しており、今度はレストランに入居者さんを連れてきて、「注文を間違えるレストラン」を開催するというのです。

そして、そのイベントで認知症紙芝居を披露してほしい、という依頼を受けました。私はすぐに「ぜひやりましょう」と答えました。

「注文を間違えるレストラン」と「認知症紙芝居」は、非常に相性が良いからです。

どちらも日本発祥のアイデアであり、認知症について知識のない一般のお客さんに対して、認知症紙芝居は分かりやすく背景や気持ちを伝えることができます。

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その理解を踏まえたうえで、認知症のある人の接客を体験する。知識が体験へと変わり、理解がより深まる。

このコラボレーションの成功イメージは、すぐに思い描くことができました。

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■IKIGAI(生きがい)

ここ数年、海外では「Ikigai(生きがい)」という言葉が注目を集めています。

成果や効率を重視する生き方への疲れ、心の充足や人生の意味を求める流れが、背景にあるようです。

「高齢者介護」と「生きがい」は、その延長線上でつながっています。もはや、衣食住を提供すればそれで十分、という時代ではなくなったからです。

人生の最終ステージをどう生きるのか。

その視点を持って介護をするのと、そうでないのとでは、大きな差が生まれます。日本は、数十年という時間をかけて、介護の中に「生きがい」という視点を育ててきました。

一方、海外ではテクノロジーの進化と長寿化の進展によって、その視点をより速いスピードで取り入れようとしています。冒頭の「注文を間違えるレストラン」の実践は、その象徴的な事例だと言えるでしょう。

■介護とIKIGAI

「介護とIKIGAI」の接続点が意味することは、ただサービスを受けるだけの「お客さん」であり続けるのではなく、

役割を持ち、いつまでも社会と関わり続ける「在り方」を提案することにこそ、未来の介護の価値があるのではないでしょうか。

介護とIKIGAI。

この二つが重なるところに、海外から求められている日本の介護のヒントがあるように感じています。

この仮説をもとに、まずはフィリピンで「注文を間違えるレストラン」を実践します。